「暮らしに役立つ法律情報」は、過去に配信していたメールマガジンの内容です。
最新の情報とは異なる場合があります。予めご了承ください。
前回に引き続き、住まいを借りる際の注意点についてのお話です。
住まいを借りる際に支払う「敷金」は、
家賃未払いになったりした際の担保という位置づけです。
したがって、未払いのトラブルなどがない限りは、
解約時に全額が戻ってくるはずです。
ところが敷金の一部を差し引く「敷引き」が設定されている場合は、
トラブルが一切なくても、無条件に敷金の一部が差し引かれてしまいます。
「部屋を借りる前の状態に戻すため」というのが理由のようです。
敷引きについては、退去時に「和室の畳を新品に交換する」
「壁紙をすべて貼り替える」「フローリングを張り替える」
といった条件になっている場合があります。
このような条件が付いている場合、
貸し主は「原状回復義務」という言葉を使ってきます。
「借り主には、元に戻す義務がある」という意味の専門用語ですが、
そういった言葉を使われると、妙に納得してしまうものです。
しかし、そもそもの原状回復義務とは、
「置いてあった家具や荷物を移動させる」
「壁に貼ってあったポスターをはがす」といったことを指すのです。
つまり、単純に「借りたときの状態に戻す」ということであって、
「部屋を真っ新な状態にして返す」ということではありません。
誰かが生活をしていれば、部屋が汚れたり、
どこかが傷んだりするのは当たり前のことです。
ですから、法律では、普通に生活をしていて汚れたり、
傷んだりしたものを真っ新にするといったことまでは求めていません。
にも関わらず、貸し主は
「全部を新しくしてから出て行ってください」
「リフォームの見積りは○○万円です」
「敷金から○○万円を引かせてもらいます」という話をしてきます。
最初に敷引きがあることが分かっていて契約している場合は、
貸し主に文句を言うことはできませんが、
敷引きの金額が驚くほど高額であった場合などには、
納得いくまで説明を求めるほうが良いでしょう。
まず、リフォーム等の理由で敷引きが高額であった場合は、
貸し主さんが作成した見積りが、適切かどうかという問題があります。
ひょっとしたら、必要以上に高額な見積りである可能性もあります。
また、部屋の一部が汚れたり、劣化していたりしても、
すべてが入居者の責任とは言えない部分もあるということを
覚えておくと良いかもしれません。
国土交通省のガイドラインでは、入居年数によって
原状回復費の負担率が変化することが明記されています。
たとえば、1年しか入居していない人がいたとします。
貸し主の立場からすれば、わずか1年前に壁紙の貼り替えなどを
行ったばかりなのに、1年で出て行かれてしまうと、
また壁紙の張り替えなどの作業が必要になる・・・ということになります。
これはさすがに貸し主側にとって、大きな負担となります。
そのため、ガイドラインでは借り主の負担について、
入居年数が短いほど大きくし、入居年数が長いほど小さくする
と定めています。
したがって「10年住み続けたから壁の汚れがひどい」
と言われても、慌てることはありません。
入居年数が10年にもなるのであれば、汚れるのも当たり前です。
10年住んでいたからこそ、貸し主は10年間リフォームの必要がなく、
貸し主の負担は少なくて済んでいるのであって、
高額なリフォーム代を請求されるのはおかしな話です。
ガイドラインの内容をもう少し具体的にご紹介しますと、
破損していない畳の裏返し・表替え、家具の設置による床のへこみ、
日焼け・タバコのヤニなどによる壁紙の変色、テレビや冷蔵庫の
設置による壁の黒ずみ、壁の画鋲の穴・・・といったものは
「貸し主」が負担することになっています。
にも関わらず「家具を置いていたフローリングがへこんでいます。
新品に変えるお金を払って下さい」と言われ、約20万円を請求された
方もいらっしゃいます。そのような場合は、貸し主と交渉するか、
弁護士などの専門家に相談されることをお勧めします。