弁護士の時事解説
日本酒のブランド化 日本酒のブランド化戦略
年末・年始は日本酒を飲む機会も多かったのではないでしょうか。 日本酒のおいしさを改めて実感された方も少なくないと思います。 今回は、日本酒のラベル表示のルールや造り方のご紹介を通して、 日本酒のブランド化とそれに基づいたインバウンド構想についてお話しします。
お酒のラベル表示にはルールがあります
皆さんは、お酒の表示にルールがあるのをご存じですか。例えば日本酒であれば、ラベルに「特別純米酒」「原酒」「生一本」といった表示がありますが、これらはいずれも、単なる業界ルールではなく、「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒税保全法)」に基づいて、国税庁が定めたルールです。
国税庁は、お酒の表示ルールの1つとして、「地理的表示」という制度を導入しています。「地理的表示」とは、原産地ならではの特性を持ったお酒にしか使えない表示を、国税庁長官が指定することで、お酒の地域ブランドを保護する制度です。
例えば兵庫県内であれば、「灘五郷」という表示が、平成30年6月28日に、地理的表示に指定されました。地域ブランドの清酒では、「白山」(石川県白山市)や「山形」(山形県)に次ぐ、3例目の指定です。
このほか、「日本酒」という表示も、清酒の中で、米や米麹に国内産のものを使用し、日本国内で製造したものでなければ使用することができないものとして、地理的表示に指定されています。
「灘五郷」とは?
「灘五郷」とは、西郷・御影郷・魚崎郷・西宮郷・今津郷という5つの日本酒の産地のことです。「灘五郷」と表示するためには、これらの地域で採取した水を使用し、製造もその地域内ですることなどの条件をクリアしなければなりません。例えば、大阪の酒造メーカーが、「灘五郷」とラベルに書くことはできないわけです。
地理的表示は品質の「お墨付き」
地理的表示には、それぞれ原料や製法について基準が定められています。お酒に地理的表示を使用するためには、指定の管理機関からのチェックを受けなければならないため、地理的表示のあるお酒には、品質に対しても「お墨付き」が与えられています。地理的表示がある商品であれば、消費者は安心して購入することができます。そして、地理的表示があるお酒が有名になることで、地域ブランド化につなげていくことができます。
日本酒は地域ブランド化に向いている
日本酒は、ワインなどと並んで、地域ブランド化に向いたお酒であると思います。なぜなら日本酒は、原産地の水・米・菌という3つの要素によって、味や香りの特徴が大きく変わるからです。
日本酒と「水」
日本酒造りでは、洗米から仕込み、度数の調整のために添加する割水など、大量の水を使用します。使用する水の性質は、味にも影響します。例えば、六甲山系から流れる地下水である「灘の宮水」では、酵母の栄養分になるミネラルが豊富なため、発酵が進みやすく、キレのある味になります。桃山丘陵からの伏流水である「伏見の伏水」では、適度に良質なミネラルを含みながらも、「灘の宮水」よりもミネラルが少ないために、柔らかい味になります。いずれも、日本酒を酸化させる原因になる鉄やマンガンの含有が少なく、日本酒造りに適した特長があります。このように、日本酒の味から、採水地の特徴を感じることができるのです。
日本酒と「米」
日本酒造りに適した米は、デンプンの純度が高く、吸水性がよく、米の中心部である「心白」が大きいものです。(純米)大吟醸は、表層部から全体の半分以上を削ることで、デンプンの純度がより高くて吸水性に優れた「心白」を多く使用するために、香り高い特長を持ちます。
兵庫のお酒によく使用されるのが、「山田錦」です。「山田錦」で造った日本酒は、味わいにふくらみがあり、かつ、すっきりとしたタイプに仕上がりやすい特長があります。日本酒造りに適した米は、全国各地で研究され、中には、すでに途絶えてしまった品種を復活させようと取り組む地域もあります。風土に合った独自の酒米の研究開発をそれぞれの地域で一丸となって取り組むことで、日本酒の地域ブランド化を実現することができます。
日本酒と「菌」
日本酒は、蒸米に種麹を振りかけて、米麹を造るところから始まります。種麹の中の麹菌は、米のデンプンを糖に分解する働きをします。次に、水と米麹に酵母や蒸米を入れて、酒母を造ります。酵母は、麹菌が生成した糖をアルコールに分解する働きをします。ここから、水・米麹・蒸米を何度も入れながら、アルコール発酵を進めていき、醪(もろみ)を造ります。最後に、醪を搾ることで、生原酒が完成します。
使用する酵母の違いは、日本酒の香りや味わいの違いを生みます。日本酒の、果物や花などに例えられる芳醇な香りは、酵母がエステル類を生成することによるものです。全国の自治体や研究機関においては、独自の特長をもった酵母の研究開発が行われています。
それぞれの地域の研究者が並々ならぬ努力よって菌の研究を行うことで、地域ブランドにつながる新しい日本酒の開発を実現することができます。
日本酒と地域
地域ブランドにつながる日本酒の味や香りは、それぞれの地域の風土、杜氏や米農家が代々受け継いできた技能、そして、研究者による最先端の研究開発によって生み出されるものです。各地の日本酒について深く知ることで、それぞれの地域の自然や人の魅力を再発見することができます。
日本酒をインバウンド戦略の切り札に
全国各地の日本酒の地域ブランド力を高めることができれば、日本酒をインバウンド戦略の1つとして活用することができます。例えば、全国の日本酒が有名な地域を観光して、その地域の日本酒を味わうツアーを企画すれば、訪日外国人の方に、日本酒の味や香りの違いを通じて、それぞれの地域の風土を知ってもらうことができます。
インバウンド戦略の中で日本酒の魅力を訪日外国人の方に知ってもらうことは、日本酒の世界的な知名度を上げることにもつながります。外国で日本酒のおいしさを知った方が、日本酒を味わうツアーに参加するために日本を訪れることで、インバウンドにつながります。このように、日本酒を通じて日本と世界とがつながっていくことで、新たなインバウンド戦略の道が開かれることになります。