弁護士の時事解説
1年以上前になりますが、日本民間放送連盟(民放連)がキャンペーンで作成した印象的で面白いCMがあります。「違法だよ!あげるくん」というタイトルのアニメーションで、内容は、男の子(あげるくん)がテレビ番組を録画して動画サイトにアップロードしていると、犬のキャラクター(トメ吉)が横で「つかまるよ、マジで」と、ドスのきいた低音で忠告するという内容です。 しかし、YouTubeをはじめとする動画サイトには、たくさんのテレビ番組がアップされています。このCMによれば、これらは全て犯罪ということになるのでしょうか?そして視聴すると私たちも「マジでつかまる」のでしょうか?
1 著作権法の概要
音楽や小説、テレビ番組等、創作者の考えや気持ちを表現したものには、著作権が発生し、創作者が著作権者として権利を有します。著作権というのは、いくつかの権利(支分権)の束といわれます。
著作者そのものではなくとも著作物の公衆への伝達に重要な役割を果たしていることから、実演家やレコード会社、放送事業者等は、「著作隣接権」として著作権に準ずる権利を有しています。
他方で、著作権者の同意がない場合に一切の著作物を使用できないとするのでは、文化的な社会はおよそ成り立ちません。そこで著作権法では、一定の著作物の利用行為については、著作権侵害にならないと定めています。たとえば、私的目的のための複製であったり、引用行為(画像を文書に貼り付けるなど)、教育関係での利用等はOKとされています。
なお、仮に私的目的であっても、著作権侵害にあたる公衆送信を受けてのダウンロード(録音・録画)は許されていません(著作権法30条1項3号)。
著作権者は、著作権や著作者人格権を侵害する者に対して、差止めを請求したり、損害賠償を請求したりする等して、自らの権利を守ることができます。
そして、著作権法は、このような著作者による私的な救済だけでなく、内容によっては刑事罰を定めています。
2 違法アップロード・違法ダウンロードに関する罪
テレビ番組を、私的使用ではない目的で録画することは、その複製権を害します。また、インターネット上にアップロードすることは、公衆送信権を害します。つまり、これらの行為は著作権や著作隣接権を侵害する行為です。このような著作権を侵害する者に対しては、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金(又はこれらの併科)とされることがあります(著作権法119条1項)。つまり、冒頭で紹介したCMでのあげるくんの行為は、この規定によって処罰される可能性があります。
この罰則は親告罪とされており、被害者からの告訴がなければ刑事裁判には至りません。しかし、民放連が冒頭のようなCMで啓発しているご時世ですから、放送事業者からの告訴は十分に考えられることです。そのため、弁護士としてもやはり、「あげるくん!つかまるよ、マジで」と忠告しなければなりません。
ちなみに、アップロードだけでなく、違法なダウンロードにも一部罰則があります。私的使用の目的であっても、著作権・著作隣接権を侵害することを知りながら有償著作物をインターネットでダウンロードした者は、「2 年以下の懲役若しくは 200万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すること」とされているのです(著作権法119条3項)。上記のとおり、著作権侵害に当たるダウンロード(録音・録画)は全て違法とされていますが、もとの著作物が有償である場合に限って罰則が定められていることになります(違法アップロードについては著作物の有償・無償を問いませんので、違いに注意してください)。
なお、違法データをダウンロードするのではなくサイト上で視聴するのは、ストリーミングといって、録音・録画を伴わないので、その行為自体は違法ではないとされています(著作権法47条の8)。とはいえ、もちろん、著作権保護の観点からは望ましい行為とは言えません。
3 「歌ってみた」や「ゲーム実況」と著作権の関係
さて、少し話が変わりますが、最近の動画サイト上では「歌ってみた」という動画や(「香水」という曲がヒットしましたね)、テレビゲームの実況も人気ですが、これらは著作権的には問題ないのでしょうか?
まず、「歌ってみた」については、音源の問題があります。伴奏に市販のCDの音源を利用してしまうと、その楽曲(楽譜や歌詞)の著作権だけの問題にとどまらず、レコード会社の著作隣接権(原盤権)を侵害する行為になります。また、カラオケ音源も、カラオケ機器メーカーが著作隣接権を保持しているため、注意が必要です。つまり、一般のCD等やカラオケ音源を利用した「歌ってみた」行為は、音源を管理する著作隣接権者から訴えられる可能性があります(なお、カラオケについては、カラオケ機器メーカーの自社サイトに限ってアップロードを許容していることがあります)。
他方、アカペラや、自らが演奏して用意した音源、利用許諾のある音源を利用する場合には、レコード会社等の著作隣接権は問題にならないので、もっぱら楽曲そのもの(楽譜や歌詞)の著作権が問題になります。そして、日本の楽曲の多くの著作権を管理しているJASRACは、YouTubeやニコニコ動画、TikTok等と使用許諾契約を行っており、一定の場合について動画内での楽曲の利用を認めています。著作権の管理団体としては、JASRACのほかにNexTone等がありますが、このような団体に登録されていない楽曲は、個別に著作権者に許諾を取ることが必要です(例えば、コロナ禍で有名になった星野源さんの「うちで踊ろう」は、本人が自由な使用を許可していると考えられます)。
このように、「歌ってみた」は、著作権者(JASRAC等や個々の作曲者・作詞者)が許容する範囲・方法でのみ可能な行為なのです。なお、自身で楽曲を演奏するとしても、大幅にアレンジしたり、意図に沿わない替え歌をすると、著作者人格権を侵害することになりますので気を付けましょう。
次に「ゲーム実況」について見てみましょう。テレビゲームは著作権法上は映画と同様に扱われており、著作権は当然ゲームメーカーにあります。そのため、著作権者が許容しない公衆送信は違法になりえます。この点、任天堂は2018年11月29日付で、「ネットワークサービスにおける任天堂の著作物の利用に関するガイドライン」を公表し、一定の条件の下の利用では、著作権侵害を主張しないことを明言しています。その他のプラットフォームによるゲームについても、公式にネット配信を許容する場合等がみられますが、ゲームの性質から実況を許諾しない場合もあります。少なくとも、個人が「収益化」に利用する場合には許諾しないとする例が多いようです。