弁護士の時事解説
他人のたばこの煙を自分の意思とは関係なく吸ってしまうことを「受動喫煙」といい、健康に悪影響を及ぼすことが明らかになっています。
受動喫煙防止対策が本格化しました
2018年7月に健康増進法の一部が改正され、今年の4月1日に全面的に施行されました。その結果、受動喫煙防止対策が更に強化され、屋内での喫煙が原則禁止となりました。
大阪府は、2019年3月には、大阪府受動喫煙防止条例が公布されており、2007年に施行されている大阪市路上喫煙防止条例等と相まって、望まない受動喫煙を防止するための規制が整備されつつあります。
しかし、改正健康増進法などが、どのようなルールを定めていて、違反した場合はどうなるか、実際にどのような影響があるか、ご存じない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、改正健康増進法と、大阪府受動喫煙防止条例について、簡単に解説したいと思います。
改正健康増進法 -マナーからルールへ-
健康増進法は、受動喫煙の防止を国と地方公共団体の責務と定め、主に、多くの人者が利用する施設での喫煙を規制しています。改正法は、上記の通り、今年の4月1日に全面的に施行されましたが、昨年中にも、施設の種類や場所の区分に応じて、段階的に施行されてきました。
例えば、2019年1月には、喫煙者に対し、周囲で受動喫煙が生じないように配慮する義務が課せられました。これにより、屋外や自宅のベランダで喫煙する際にも、望まない受動喫煙が生じないよう、周囲に配慮しなければならないものとされました。ただし罰則は定められていません。さらに、同年7月には、学校や病院等の敷地内での喫煙が原則禁止となり、学校や病院の施設内に喫煙場所を設置することができなくなりました。ただ、喫煙場所を屋外に設置することは法律上認められています(受動喫煙防止措置が必要)。なお、例えば屋内の喫煙には30万円以下の過料などの、罰則が定められています。
そして今年の4月1日からは、屋内(ホテルの客室、喫煙室、喫煙目的施設などを除く)での喫煙が原則禁止となりました。施設の管理者は、原則として、屋内全面禁煙にするか、喫煙室を設置するかのいずれかを選択することになります。飲食店だけでなく、オフィスやパチンコ店なども対象です。また、IQOS等の加熱式たばこも対象です。
喫煙室内であれば喫煙することができますが、喫煙室内で飲食をすることはできません。たとえば、居酒屋でたばこを吸いながらお酒を飲んだり、焼肉店でたばこを片手にお肉を焼くといったことはできなくなりました(後述する比較的小規模な飲食店を除く)。もっとも、加熱式たばこ専用の喫煙室であれば、飲食しながら加熱式たばこを吸うことは認められています。
また、喫煙室がある店舗や比較的小規模な飲食店、喫煙目的施設(喫煙を主目的とするバーやスナック等)には、店の入口と喫煙室の入口にそれぞれ標識を掲示しなければなりません。これにより、入店前に、店内が喫煙可能かどうか確認できるようになります。
さらに、喫煙可能な場所には、客・従業員を問わず、20歳未満の人の立ち入りが禁止されます。つまり、後述する屋内喫煙可能な飲食店の場合、家族連れの入店を断らなければなりませんし、20歳未満の人を雇用することもできません。罰則規定もあります(標識設置義務違反には50万円以下の過料など)。
もっとも、改正健康増進法は、比較的小規模な飲食店(資本金が5,000万円以下で、かつ客席の面積が100㎡以下の既存飲食店)については、店の入口に標識を掲示し、20歳未満の客と従業員の立ち入りを禁止すれば、店内全面喫煙可としても良いとされています。この経過措置の対象となる飲食店は、飲食店全体の約55%にも及ぶようです。
大阪府受動喫煙防止条例
これに対し、多くの地方公共団体は、条例によって、より厳格な施設内での喫煙ルールを設けています。
たとえば、先述の大阪府受動喫煙防止条例では、学校や病院等の施設について、今年の4月1日から敷地内全面禁煙となっており、屋外に喫煙場所を設置することもできませんし、2025年4月からは、客席の面積が30㎡を超える飲食店について、屋内原則禁煙(全面禁煙とするか、喫煙室を設置する)とされています。
東京都では今年の4月から、客席の面積に関係なく、従業員を1人でも雇っていれば原則屋内禁煙となりました(都内の飲食店の約84%が規制対象となるようです)。
罰則について
以上のように、施設内での喫煙が原則禁止となりましたし、喫煙可能な場所には標識が設置されますので、望まない受動喫煙はかなり減ると思われます。もっとも、健康増進法や大阪府受動喫煙防止条例は、主に施設管理者を規制の対象としていますので、喫煙者個人が罰則の適用を受けることはほとんど無いと思います。
ここで、路上喫煙に対する規制についても簡単に触れておきますと、大阪市では、路上喫煙防止条例によって、路上喫煙禁止地区内での路上喫煙を禁止しており、違反者は1,000円の過料に処されます。この年間処分件数は、平成30年度では約4,300件だったそうです。
なお、過料とは行政上の罰則であり、刑罰ではありませんので、これを科されても前科はつきません。これに対し、罰金・科料(過料と同じく「かりょう」と読みます)は刑罰であり、これを科されると前科がつきますし、納付しない場合には労役場留置になります。結局のところ、喫煙者のマナーの向上が最も効果的な受動喫煙対策であるといえそうです。