弁護士の時事解説
100周年を迎える調停制度について
裁判所のホームページに、今年の10月で裁判所の調停制度が発足して100周年になるとの広報がありました。 普段利用する制度でありながら、その歴史まではこれまであまり知る機会がなかったのですが、少々調べたところによると、日本の裁判所における調停制度は大正11(1922)年10月1日の借地借家調停法施行が起源とされているようです。 100周年ということで裁判所でも積極的な広報が予定されているようですが、この機会にここでも調停制度についてご紹介してみたいと思います。
調停制度とは
❶ 調停の手続き
調停とは、紛争の解決のために、第三者が和解の仲介を行い、当事者間の合意成立を目指す手続であり、裁判所の調停は原則として、裁判官と民間から選ばれた調停委員2名が手続を担います。具体的には、調停室で調停委員が当事者から片方ずつ話を聞くことを繰り返して、合意形成を図るというイメージです。
❷ 調停の種類
大きく分けると、一般の民事上のトラブルを扱う民事調停、その特例として借金の返済条件の調整を目的とした特定調停、家庭内の事件を扱う家事調停、の3種類があり、民事調停と特定調停は簡易裁判所、家事調停は家庭裁判所で行われることになります。
メリット
話し合いで円満な解決が実現できるということの他に、①手続が簡単(簡易な申立書と最低限の必要書類)、②費用が安い(訴訟に比べて裁判所に納める手数料が低額)、③判決と同じ効果(成立時に作成される調停調書は、これにより強制執行が可能になるなど、確定判決と同様の効力が認められている)④秘密が守られる(守秘義務・非公開手続)、といったメリットが挙げられています。
デメリット
❶ 合意成立が必要
「裁判所での話し合い」という性質上、どうしても条件がまとまらない場合や、そもそも相手方に調停に応じる意思がない場合には、調停手続は不成立になってしまいます。
この場合、そのまま審判手続に移行する一部の事件類型を除き、事件解決を求める当事者としては、改めて当事者間での解決を図るか、訴訟を提起するか、といった判断を求められることになります。
❷ 管轄制度による分担
民事・家事の区別なく、調停手続が行われる裁判所(管轄)は、原則として相手方住所地最寄りの裁判所と定められています。
そのため、特に夫婦が別居して離婚や養育費等に関する調停を申し立てることになった場合、相手方が遠隔地に住んでいると、調停を申し立てる側に、遠方の裁判所に出頭する負担が生じる場合があります。
❸ 待合室での待ち時間
調停手続では、基本的に、相手方当事者が調停委員と調停室で話をしている間、待合室で待機することになります。ただ、裁判所によっては、この待合室が決して広くないこともあり、同時進行している他の事件やその関係者が多いと、すぐに座れない場合もあります。また、相手方の話が長引いたりすると、かなり長い時間待たされることもあります。その時間を利用して、弁護士と依頼者が打合せをすることもできますが、一区切りついてしまうと、手持無沙汰になってしまうこともあるのが実情です。
調停に適した事件と弁護士の関与
❶ 調停の申立を検討すべき場合
まず、訴訟提起の前に調停を行うことが求められる家事事件については、当事者間での交渉が不調であれば、手続を前に進めるために原則として調停を申し立てる必要があります。
また、民事事件であっても、訴訟で裁判所の判決を求めることが何らかの理由でためらわれる場合には、調停申立を検討する価値があります。
例えば、証拠が乏しく、求める判決が得られない可能性がある場合や、当事者間に訴訟での対決姿勢を避けたいという関係や事情がある場合、さらに、判決で請求が認められるだけでは事案の適切な解決が図られないと考えられる場合、などです。
❷ 弁護士に依頼するのが望ましい場合
上記のとおり、調停の手続そのものはそこまで複雑なものではなく、また、手続の中で裁判所が妥当と考える基準や解決内容が目安として示されることもあるため、事案によっては、まず当事者本人で調停手続に臨んでみては、とお勧めする場合もあります。
しかし、例えば、相手方や裁判所を説得するために、適切な主張や証拠提出を行う必要がある場合や、調停の段階でどこまで手持ちの証拠を提出すべきか、慎重な判断が求められる場合などには、調停であっても弁護士に依頼することが望ましいといえます。
政府広報ラジオ番組でも調停制度が紹介されています
『みんなに知ってほしい! 進化する調停制度』
ゲスト 最高裁判所 事務総局 家庭局 第一課長 戸苅 左近 さん
政府広報オンライン(02:30頃から調停制度の話が始まります)
https://www.gov-online.go.jp/pr/media/radio/sc/sound/20220206/20220206ot.php
(配信期間 令和4年2月6日~令和5年2月5日)