弁護士の時事解説
多くの人がスマートフォンを日常的に持ち歩くようになり、気軽に撮った写真を何気なくSNSに投稿されることも多いようです。しかしその行為が「肖像権の侵害」としてトラブルになるケースがあります。
「肖像権」とは、法律上の規定はありませんが、裁判所の判例では、「みだりに自己の容貌等を撮影され、これを公表されない人格的利益」として法的保護の対象とされています。
今回のテーマである、「肖像権の侵害」にあたる行為には、「写真、ビデオ撮影などありのままを記録する行為」や、「これを公表する行為」が含まれます。公表しなくても、撮影しただけで肖像権の侵害になりますので、注意が必要です。
個人のプライバシー情報である容貌等を、自分の意思に反して撮影されたり公開されることへの不快感は、誰もが感じることですので、肖像権が保護されるのは、有名人に限ったことではありません。裁判で肖像権の侵害と認められた例では、以下の点が判断基準となっています。
1 撮影対象の人物がはっきりと特定できること
2 風景写真などに偶然映り込んだものではないこと
3 SNSなど拡散性の高いところに投稿したこと
みだりに他人の容貌や容姿を撮影することだけでも肖像権の侵害となりますが、それを公開することにより違法性が高まります。
肖像権侵害は、名誉棄損罪や侮辱罪など、犯罪とまではいえないケースがほとんどですので、刑事上の責任というよりも、民事上の損害賠償請求の対象となります。
ではここで、具体的に損害賠償が認められた例をご紹介します。
【例1 】流行の最先端のファッションを紹介する目的で、銀座を歩いていた女性の写真を無断で撮影し、被告が管理するウェブサイトに掲載したことが肖像権の侵害にあたるとして、損害賠償請求が認められた例があります。
原告女性が着ていたのは、イタリアの有名ブランドがパリコレクションに出展した服で、胸に赤く大きい「SEX」という文字が施されたデザインでした。
その後、2ちゃんねるの複数のスレッドからリンクが貼られ、原告に対する複数の下品な誹謗中傷が書き込まれ、本件サイトからダウンロードされ複製された写真が掲載され、拡散されました。
この事を友人から知らされた原告女性がすぐに抗議したため、写真は本件サイトから削除されたのですが、写真は既に拡散されていたため、原告女性に対する誹謗中傷が繰り返されました。
裁判所は「本件写真は原告の全身像に焦点を絞り、その容貌もはっきり分かる形で大写しに撮影されたものであり、しかも、原告の着用していた服の胸部には上記のような「SEX」の文字がデザインされていたのであるから、一般人であれば、自己がかかる写真を撮影されることを知れば心理的な負担を覚え、このような写真を撮影されたり、これをウェブサイトに掲載されることを望まないものと認められる」(東京地方裁判所2005年9月27日判決)として、損害賠償を認めました。
【例2】 ツイッターに、「自分が反対したし、孫も泣いて帰りたがっていたのに、嫁が孫を安保法案反対のデモに連れて行き、孫が熱中症で死んだ」という内容のデマ情報が、原告の写真を添付して投稿されました。
被告は、本件画像はすでにウェブサービスで公開されていたのであるから、本件記事に添付して本件画像を公開することは、原告の肖像権を侵害するものではないと主張しましたが、「人格価値を表し、人格と密接に結びついた肖像の利用は、被撮影者の意思に委ねられるべきであり、ウェブサービスで本件画像が公開されていたからといって、このことから直ちにその方法に限定なく本件画像を公開できるとか、本件画像の公開について被撮影者である原告が包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない」との判決が下されました(新潟地方裁判所2016年9月30日判決)。