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弁護士の時事解説

  児童虐待と法律

このところ、虐待が原因で子どもが命を落としたり、悲惨な怪我を負ったというニュースを多く見聞きするようになりました。本サイトの読者の中にも、心を痛めていらっしゃる方が多いのではないでしょうか。中には「法制度はどうなっているのか」「児童相談所は何をしているのか」という感想をお持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。 現在、私は、「児童虐待等危機介入援助チーム委員」との公職を拝命しており、大阪府下にある各児童相談所から、児童虐待に関する法律相談や裁判手続の依頼を受けることがあります。 今回は、このような立場から、ニュースの背景にある法律を少し解説してみたいと思います。

児童虐待とは

『児童虐待の防止等に関する法律』(以下「児童虐待防止法」)という法律があります。そこでは、次のようなものが児童虐待にあたるとされています。

①身体的虐待:児童の身体に外傷が生じる、又は生じる恐れのある暴行を加えること。

②性的虐待:児童にわいせつな行為をすること、又は児童をしてわいせつな行為をさせること。

③ネグレクト:他者による虐待行為の放置、保護者としての監護を著しく怠ること。

④心理的虐待:児童に対する著しい暴言や、児童が同居する家庭におけるDV等、児童に著しい心理的外傷を与える言動。

 

児童相談所への児童虐待通告件数が、毎年右肩上がりに急速に増加しているグラフを、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。平成2年度は1,101件だった児童虐待相談対応件数が、平成15年度には26,569件、そして平成29年度は133,778件にもなっています(「児童虐待相談対応件数の推移」厚生労働省統計)。これは、意識の高まりによる相談件数の増加のほか、児童虐待防止法によって、児童虐待の類型が明確になったことにより、③ネグレクト④心理的虐待もキャッチされるようになったからだといわれています。特に、夫婦間のDVも、④心理的虐待の類型にあたることから、DV対応をした警察からの通告が増えています。

 

 

児童相談所の業務

児童相談所とは、児童福祉法に定められた行政機関です。児童や妊産婦、家庭の福祉に関し、専門的な相談・援助に応じたり、必要な調査や一時保護、里親や養子縁組の相談・援助の業務、を行うものとされています(児童福祉法11条1項、同12条)。

もともと、児童福祉法では、児童の育成に関して、保護者が第一義的に責任を負うとしつつも、国や地方公共団体(都道府県や市町村)が、「保護者とともに」児童を育成する責任を負う、と定めています(児童福祉法2条)。そのうえで、1)都道府県(及び政令指定都市)は児童相談所を設置して専門的な相談・援助を行い、2)市町村は、児童の身近な場所における支援の業務を行うこと、とされているのです(同第3条の3)。

 

相談・援助・支援と、子どもの保護の関係

ここまで触れてきたとおり、児童福祉法には「相談」「援助」「支援」という言葉が多く出てきます。もちろん、一時保護の規定(児童福祉法33条)もありますが、虐待する保護者を排除するような書きぶりではありません。児童虐待防止法には、「保護者への指導」という文言もありますが、あくまで親子が家庭で生活していくようになるための趣旨の規定となっています。

これには理由があり、「児童虐待の防止や子どもの健やかな成長のためには、家庭や親子への支援こそが重要」ということを基本的な考え方としているからです。

児童虐待や不適切な養育は、様々な要因が絡み合って生じるものと言われています。

例えば、[子どもの側の要因]として、乳幼児、双子や三つ子、発達障がいや知的障がい等、どうしても手がかかる状況になることがあります。また[保護者側の要因]として、産後うつ育児の不安、自身の幼少期の被虐待体験、過度なしつけ、子育て方法の誤った理解等が考えられます。[環境的な要因]としては、孤独な子育て環境、経済的困窮、再婚等による家庭環境の変化等が挙げられます。

一つ一つの要因は、誰もが当てはまる可能性があるものですが、これが多層的に重なり合ったとき、病理現象のように、児童虐待が起きてしまうのです。

しかし、逆に言えば、これらの要因を、「相談」「援助」「支援」で乗り越えることができれば、虐待は解消していくと考えられます(誰だって、子どもが本当に憎くて虐待しているわけではないのではないでしょうか)。だからこそ、児童相談所や市町村には、保護者や家庭を支援していくことが法律上求められているのです。

 

しかし、子どもたちの生命や身体、精神面に大きな危険が生じている場合は、順を追って「相談」や「支援」を行うわけにもいかず、緊急的に保護しなければならないことがあります。また、今後の長期的な親子の支援を考えたときに、親子がいったん距離を置き、環境を整えたり、必要なケアを受けたりすることが必要な場合もあります。

そのために、児童相談所長には、子どもを一時保護する権限が与えられているのです。一時保護は原則2か月ですが、必要があれば延長することができます。一時保護では足りず、もう少し長期的に親子が離れての支援が必要な場合には、児童養護施設等への入所をさせたり、里親への委託をしたりすることもあります(これらの措置を進めるときに、家庭裁判所の手続が必要になることがあり、弁護士が依頼を受けることがあります)。

 

 

ニュースの背景

このように、児童相談所は、①親子や家庭に対して相談・援助を行い、親子が虐待等に至らずに健やかに生活することを目標としながら、しかし、②時には、親から子どもを保護して分離する、という、やや方向性の異なる2つの業務を同時に担っています。

この二律背反の難しさを踏まえた対応こそが、児童相談所の専門性の1つなのですが、さかんに報道で叫ばれているように、対応件数の増加に職員の質と量が追い付いておらず、現場が疲弊しているという問題があります。

他方、一時期のワイドショーでは、子どもを守るため、児童相談所と警察の連携を強化しようとか、保護者への刑事罰を強化しようとか、柔軟に親権を止められるようにしようとか、様々な人たちが、様々な提言をしていました。

確かに、子どもを守るために児童相談所が適切に判断し、権限を行使していくことは大切です。しかし、だからといって、「相談」「援助」「支援」という基本的な視点が抜け落ちてしまっては本末転倒です。悲惨な事件を減らすために本当に必要なのは、子育てに苦慮している家庭を孤立させず、早期の相談・支援につなげていくことではないかと思います。

また、子どもを保護して終わりではなく、法律は、親子が再び良い関係や環境に戻っていけるように、専門的な支援や調整を進めていくことを重要視しています。

国や地方公共団体が、これらの支援体制を充実させていくこと、そして誰もが安心して子育てできる環境を整えていくことが、一番必要ではないでしょうか。

 

 

私達ができること

では、「近所で見かけるあの子、大丈夫かな?」と思ったときは、どうすればよいでしょうか。

有名になりましたが、児童相談所全国共通ダイヤル「189(いちはやく)」という番号があります。児童虐待防止法では、「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者」(同6条)は、児童相談所や市町村に連絡(通告)することになっています。「思われる」というのがポイントで、実際に児童虐待があったかどうかは問題ではなく、間違っていたからといってとがめられることはありません。

また、通告した人が誰かは、保護者や家庭には伝わらないようになっています。

上記のように、子どもの保護ありきではなく、相談や支援につながっていくこともありますから、どうしても心配な子どもがいれば、児童虐待という確信が持てなくても、連絡をしていただければと思います。

※みお綜合法律事務所では、利益相反の関係から、大阪府下にある児童相談所を相手方とする事件の相談をお受けすることはしておりませんので、ご留意ください。

児童相談所では、保護した子どもの生活を支えるための「里親」の候補者を募集していることもあります。 比較的負担の少ない方法としては、施設で暮らす子どもに家庭生活を経験させるような「週末里親」という制度もあります。そこまではちょっと・・・という方も、毎年11月に実施される「オレンジリボンキャンペーン」等、児童虐待に関する色々なイベントが催されていますので、ぜひ一度調べてみてください。 児童福祉に関わる弁護士として、皆様に少しでも関心を持っていただけたら嬉しく思います。
このコラムを書いた人


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