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弁護士の時事解説

京都の自転車事情 自転車保険加入義務化について

京都、特に京都駅前事務所がある京都市内では、自転車が走っているのを頻繁に見かけます。その理由としてまずは、京都は大学や学生の数が多く、通学手段として自転車が利用されていることが挙げられます。私自身、学生時代には自転車が通学や日々の生活に無くてはならないものでしたし、数えられないくらいの自転車が置かれた大学の駐輪スペースの光景は、壮観とも言えるものでした。 もう一つの理由としては、土地が比較的平坦で自転車でも移動しやすい一方で、公共交通手段である地下鉄やバスでの移動が必ずしも便利とは限らないという面があろうかと思います。京都の場合、地下鉄は烏丸線(南北方向)と東西線(東西方向)の2つしかなく、目的地の最寄りに地下鉄の駅がないこともありますし、バスは路線によっては観光客などで常時混雑していることも多いためです。そのため、特に裁判所近くに事務所がある弁護士や事務員の中には、自転車を裁判所への移動手段として利用している方々もそれなりにおられます。

自転車保険の義務化

京都で生活するのに、自転車は非常に便利な交通手段と言えますが、平成3041日から、自転車保険への加入義務を定める京都府と京都市の条例が施行されました(『京都府自転車の安全な利用の促進に関する条例(以下「府条例」といいます)』『京都市自転車安心安全条例』)。

このような自転車保険への加入義務化は、交通事故の発生件数が年々減少する中、自転車側が加害者となる交通事故の割合が増加傾向にあり、高額賠償事例も生じていることから、被害者の救済を図ると同時に、加害者の経済的負担を軽減するためとされています。

高額賠償事例として、事故時11歳の小学生が起こした自転車事故で、小学生の母親に約9,500万円の賠償が命じられた神戸地裁平成25年7月4日判決(判例時報2197号84頁)などは、当時大きく報道されたため、記憶されている方もいらっしゃるかもしれません。

このようにここ数年で自転車事故による被害が問題とされるようになった結果、自転車事故による損害をカバーできる保険への加入義務化を図る動きが起こりました。これを書いている時点で、近畿圏では、京都府のみならず、大阪府・兵庫県・滋賀県で、条例により保険への加入が義務付けられています。

そこで今回は、京都府の条例を題材に、自転車保険の加入義務化の概要をご紹介したいと思います。自転車は自動車と異なり、免許や年齢制限がなく、誰でも気軽に利用できる乗り物です。それだけに、「自分は自転車に乗らない」という方でも、ご家族や従業員が万一事故を起こした場合の備えとして、この機会に保険加入の要否についてご確認いただければと思います。なお、お住まいの地域によって、条例による規制内容は異なる可能性がありますので、詳細は地方公共団体のホームページなどでご確認ください。

 

京都府の自転車保険加入義務化の概要 

1)誰が義務を負うのでしょう?

京都府の条例では、①自転車を利用する成年者(条例16条1項)、②自転車を利用する未成年者の保護者(同条2項)、③従業員に自転車を利用させる事業者(同17条)、④自転車貸出業者(同18条)、が義務を負うものとされています。

そのため、家庭で自転車を利用する場合だけではなく、例えば事務員に自転車を利用させている弁護士事務所(③)や、京都でも最近増えている観光客向けのレンタサイクル事業者(④)も加入義務を負うということになります。

 

2)どのような義務を負うのでしょう?

加入義務を負うことになる「自転車損害保険等」とは、具体的には「自転車を利用する者がその利用により交通事故を起こして他人の生命または身体を害した場合における損害に係る損害を填補することができる保険または共済(府条例15条)」、すなわち自転車に乗る者を被保険者とする対人賠償保険を意味します。

もっとも、賠償限度額等についての定めや、加入しない場合の罰則までは設けられていません。

 

3)どのような保険に入るべきなのでしょう?

個人で新たに加入する場合に分かりやすいのは「自転車保険」という名称の商品です。最近は、学校や自転車を販売している店舗などでも情報提供が行われていますし、京都府のホームページなどでは府と協定を締結している保険会社の商品が紹介されていますので、これらも参考になろうかと思います。もっとも、自転車保険による補償内容は、自動車保険、火災保険、傷害保険など各種保険に附帯できる個人賠償責任保険でカバーできる場合も少なくありませんので、新たに保険に加入する前に、これらの保険の補償内容をまず確認してみるのが良いかもしれません。

このように自転車保険といってもいろいろなものがありますが、保険を選ぶ際には、保険料(掛金)だけでなく、補償の対象や限度額、被保険者の範囲や年齢、示談代行サービスの有無などを確認して、もっとも適切な保険を選択しましょう。

なお、事業者は、施設賠償責任保険など事業者向け保険への加入が義務付けられています(府条例17条)。

これまでの自転車側が加害者となる交通事故では、加害者側に賠償額を支払うだけの資力がないことが問題となっていました。そのような理由で解決が遅れることは、被害者はもちろん、加害者にとっても不幸な事態といえます。そのため、自転車保険への加入は、ご自身やご家族が万一自転車事故を起こしてしまった場合の心強い備えとなります。気持ちよく自転車を利用できるように、この機会にご自身やご家族の保険加入状況について確認されてみてはいかがでしょうか。
このコラムを書いた人


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