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弁護士が主人公の『九条の大罪』という漫画を読みました。最近、弁護士や裁判官が主人公の漫画やドラマがよくありますが、実際の通りと言える場面と実際とは違う場面が混在しているように思います。
さて、『九条の大罪』第一話では、交通事故で左足の膝から下を切断した5才の男の子について、「後遺障害4級5号で1,000万円そこそこで受理したが、弁護士をつければ7,000万円からの交渉」と主人公が話しています。私は、保険会社との示談交渉をよくやっている立場ですので、主人公の発言がその通りと言えるか検証したいと思います。
①後遺障害4級5号で1,000万円そこそこで受理したとの点
本件で、1,000万円そこそこで解決ということは考えにくいように思います。
被害者の方が、交通事故の示談交渉で弁護士を付けなかった場合、示談金額が低くなってしまうことがほとんどです。ただ、示談交渉では、被害者の過失が70%以上でなければ、自賠責保険の最低限の補償を受けることができます。本件のように下肢切断で4級5号の後遺障害が残っている場合、最低限の補償額は1,889万円です。また、事故状況ははっきりしない部分もありますが、昼間に横断歩道上で横臥していたということであれば、過失相殺の問題が生じる可能性はありますが、70%以上の過失割合になることはまずないと思います。そのため、最低限の補償額が適用され、男の子は少なくとも1,889万円の補償を受けることが可能と思われます。
それが、1,000万円そこそこということですので、実際の取扱いとは違う結論になっているように思います。1,000万円そこそこというのが、1,889万円を指しているのであれば話は別ですが、1,000万円そこそこというのは、1,100万円とか1,200万円とかを指すように思いますので、やはり、実際とは少し違うのかなと思います。
②弁護士をつければ7,000万円からの交渉との点
漫画から分かる範囲で、弁護士に依頼した場合の男の子の請求額を試算すると、下記の通りです。
・入通院付添費・入院雑費 約100万円
・入通院慰謝料 200万円~300万円
・後遺障害逸失利益 約5,000万円
・後遺障害慰謝料 1,700万円
上記を合計すると、約7,000万円ですので、主人公の発言は正しいと言えます。ただし、その他に請求してもいいと思われるものとして、今後の義足費用・今後の介護費用(男の子は一人では歩いておらず、お母さんに車いすを押してもらっています)が考えられます。これらも請求するのであれば、請求額が1億円近くになる可能性もあります。
あと、男の子の賠償額を考える上で非常に重要なのが、事故発生日です。漫画では、事故発生日は不明ですが、2020年3月31日以前の事故であるか、2020年4月1日以降の事故であるかで結論が大幅に変わってきます。これは、上記の後遺障害逸失利益を算定する際の中間利息控除に用いる法定利率が、2020年4月1日から変更になり、下がったためです(民法417条の2)。この変更により、後遺障害逸失利益に関していうと、2020年4月1日以降の事故の方が金額が高くなります。漫画の男の子の逸失利益は、仕事をすることが可能であろう18才~67才までの49年間分について認められます。ただ、49年間分がそのまま認められるのではなく、将来仕事をして、もらえるはずの分を前倒して受け取ることになりますので、法定利息を控除して受け取れる額が小さくなります。具体的には、2020年3月31日までの事故であれば、約9.6年分ですが、2020年4月1日以降の事故であれば、約17.3年分と大幅に大きくなります。その場合の請求額を試算すると、下記の通りです。
・入通院付添費・入院雑費 約100万円
・入通院慰謝料 200万円~300万円
・後遺障害逸失利益 約9,000万円
・後遺障害慰謝料 1,700万円
上記を合計すると約1億1,000万円になります。ということで、漫画の交通事故発生日は、2020年3月31日以前だったのだと思います。
第一話のタイトルは『片足の値段』ということですが、1,000万円そこそこでは少ないと言わざるを得ません。7,000万円や1億1,000万円でも十分ではないと感じるかもしれませんが、現実的にはそのくらいになってしまいます。皆さんは7,000万円と聞いてどのように感じられましたか?
(マンガの大半は刑事事件にかかわる内容になっていますが、当事務所で扱っているのは民事の保険会社との交渉ですので、保険会社との交渉部分の記載に絞って実際と比較しています)
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(弁護士 羽賀 倫樹)