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弁護士の時事解説

『少年法』の適用年齢引下げにSTOPを! 『少年法』の適用年齢引下げにSTOPを!

名前はよく知られているけれど、趣旨や内容を理解している方は少なく、かえって多くの方に誤解されている法律があります。 『少年法』です。

私は、少年事件に関心があり、数多く取り組んできましたが、新人弁護士の頃に担当した忘れられない事件があります。彼は少し幼さの残る顔立ちの19歳の少年でした。支えてくれる家族はおらず、早くに自立する必要のある環境で育ちました。

ある日、歩き疲れていた彼は、何者かに盗まれて乗り捨てられていた自転車を見つけて、乗っていたところを警察に捕まりました。占有離脱物横領の罪です。その結果、少年院送致となり、1年以上少年院で過ごしました。

彼の犯行が、もし20歳になってからだったら、逮捕されることさえなかったかもしれませんし、間違いなく不起訴処分だったでしょう。

家庭裁判所は、『少年法』に基づき、彼の成育歴、性格、生活状況、能力などを丁寧に調査し、彼を「保護」するために、少年院での矯正教育の機会を与えたのです。大人であれば、「保護」なんてされず、釈放される事案です。

私は、何度か少年院にも面会に行き、彼との交流を続けましたが、彼は、少年院で、苦しくなってしまうぐらい自分自身と向き合い、将来について考えていました。

『少年法』の第1条には、「非行のある少年に対して性格の矯正及び環境の調整に関する保護処分を行う」と定められています。私は、初めてこの条文を読んだとき、「性格の矯正??」と目を疑いました。

『少年法』は、可塑性(変わることができる柔軟さ)という少年の特性に着目し、「性格の矯正」までを目的にして、少年に適切な働きかけができる法律なのです。

『少年法』は子どもに甘い法律だというのは完全な誤解です。大人の感覚からすると、『少年法』というのは、「保護」の名のもとに、生活環境や交友関係にまで口を出してくる、ある意味「過干渉」な法律です。ちょうど、親や教師が、子どもの成長を見守るのに似ています。見守るけれど、しっかり口も出すのです。これで、「『少年法』は少年を保護する甘い法律だ」というのが誤解だとお分かりいただけたでしょうか。

罪を犯した人が、まだ可塑性に富んだ年齢であれば、刑罰ではなく教育を与える方が、社会にとっても本人にとっても有益であるとの、刑事政策上の判断なのです(なお、『少年法』では、まだ罪を犯していないが、将来罪を犯しそうな少年を、少年院に送致することさえできます)。そして、このような日本の『少年法』は、世界でも高い評価を受けているそうです。

この『少年法』の適用年齢を、現行の20歳未満から18歳未満に引下げるべきかどうか、法制審議会で議論が続いています。

『少年法』の適用が18歳未満に引下げられれば、先ほどの19歳の彼は、少年院に行くことはなかったでしょう(その方が彼にとってよかったのかどうかは分かりませんが、多くの非行少年は、少年院に行くよりも不起訴処分になることを望むでしょう)。

現在、家庭裁判所で扱われている少年事件の約5割は18・19歳が占めています。つまり、仮に『少年法』の適用年齢を18歳未満に引下げると、これまでの約5割の少年が少年法の手続きの対象外となり、心理学・教育学などを修得した専門家による、調査や教育的働きかけを受けられなくなってしまうのです。

成人事件の約65%は起訴猶予処分とされていますので、教育的働きかけも刑事処分も受けないまま事件が終了するケースが相当数になってしまいます。

もしかすると「過干渉」かもしれませんが、まだまだ可塑性に富む、18・19歳の子どもor少年に対して、教育的な働きかけを行い、更生についての助言や支援をする機会を奪うことは、本人にとっても、社会にとってもマイナスです。『少年法』の適用年齢の引下げに反対する根拠の一つに、「若年者の再犯の増加により新たな被害者を生み出しかねない」という意見があるのは、このような事情によります。

「そんなことを言ったって、少年による凶悪犯罪が増えているじゃないか!」、というお声が聞こえてきそうですので、ここで少年事件の現状を確認してみたいと思います。

2015年の内閣府の世論調査では、78.6%が「少年非行が増えている」と答えています。しかし、統計からみると、少年非行は近年急激に減っています。検挙者数は、1983年のピーク時に比べて、なんと80.2%も減少し、少子化の影響を排除するため、少年人口当たりの発生数を比べても、70.7%減少しています。

また、少年の重大・凶悪犯罪も減少しています。殺人と傷害致死の合計は、1961年のピーク時に比べると89.7%(少年人口当たりの発生数でも83.8%)も減少しています。

このように、日本においては、少年犯罪も、少年による重大犯罪も、大幅に減少しているのです。

また、18・19歳の少年が起こす事件の種類を分析すると、殺人(未遂を含む)と傷害致死は合計で0.05%です。しかも殺人や傷害致死については、少年であっても原則として成人と同じように地方裁判所での刑事裁判で刑罰を科されることになります。

このような状況の中で、少年の凶悪犯罪については大人と同じように処罰すべきだという理由で、『少年法』全体の適用年齢を引下げるメリットは何か、デメリットは何か、皆さまにも考えていただきたいと思います。

教育的な働きかけをすれば十分に変わる可能性がある年齢の少年に対して、その機会をできるだけ与えることが、その少年にとっても、社会全体にとっても有益であることは異論のないところだと思います。

10代で犯罪に手を染めてしまう少年の多くは、家庭環境に恵まれず、愛情を十分に受けて育っていません。私の経験上、多くは、幼少期に虐待を受けて育っています。その歪みが、自傷行為として現れるケースもあれば、他者への犯罪として現れるケースもあります。

様々な事情を抱える子どもたちをどのように支え、どこに導いていく社会でありたいのか。『少年法』の適用年齢引下げ問題は、子どもたちから大人への問いかけとして、社会全体で考える必要のある問題だと感じています。

この問題をもっと詳しく知りたい方は、日本弁護士連合会のホームページから関連する情報を入手できます。

※参考資料
日本弁護士連合会サイト/パンフレット「少年法の適用年齢引下げを語る前に」(2017年6月改訂)

ぜひ、「日弁連 少年法の適用年齢引下げを語る前に」と検索してみてください。

日弁連(日本弁護士連合会)などが強く反対している、『少年法』の適用年齢引下げのため の法改正案は、日弁連ばかりでなく、一部与党内部からも強い反対を受け、政府・与党によ る今期国会提出は見送られました。
このコラムを書いた人


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